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これまでの研究プロジェクト

☐ 人類社会の進化史的基盤研究(1):集団(2005年4月〜2009年3月)全21回
研究会記録

☐ 人類社会の進化史的基盤研究(2):制度(2009年4月〜2012年3月)全16回
URL:http://human-evo.aacore.jp/
研究会記録


研究会記録:

「人類社会の進化史的基盤研究(1)—集団—」


■プロジェクトメンバー

[主査]河合香吏
[所員]西井凉子、床呂郁哉、椎野若菜
[共同研究員]足立薫、伊藤詞子、今村仁司、内堀基光、梅崎昌裕、大村敬一、北村光二、黒田末寿、杉山祐子、曽我亨、田中雅一、寺嶋秀明、中川尚史、早木仁成、船曳建夫


■概要

この研究プロジェクトは人類社会を霊長類から現生人類にいたる進化の軸上で比較考察し、人類学における社会理論の新たな展開をめざすこと、それによって人類の「文化」が社会形成にいかに関与しているかを再考するために組織された長期的プロジェクトの第1弾である。ここでは社会理論のなかで第一に問題となる「集団」に焦点が当てられた。すなわち、「集団」の概念を霊長類進化史上におくことにより、この概念の自明性を崩し、個体レヴェルの自他認識を越え「他集団」なる抽象的な他者の生成にいたる「集団」のなりたちをふくめ、「集団」の認識(perception)の生成と展開を進化史的な視点から検討することをめざしたものであった。これにより、他者認知やアイデンティティといった個体間関係、およびテリトリーの生成とその認知、規則の発生と定着の過程といった個体間関係を越えた社会事象にいたる問題群に迫る議論が展開されてきた。
 共同研究員としては、霊長類学の分野から霊長類社会学および霊長類生態学の専門家、人類学の分野から生態人類学、社会文化人類学、人類生態学の専門家を加えた。これに社会哲学(社会思想史)の専門家に参加してもらうことにより、霊長類から人類への架橋の理論的意義を考察する示唆を得てきた。社会事象にあって、「集団」は比較的顕在化(目に見えやすい)したものである。したがって、「人類社会の進化史的基盤研究」というときに、ひろく霊長類学的知見をふくめて、人類史的規模での比較の橋頭堡が築きやすい。長期的なプロジェクトとしては、継続的に「制度」、「所有」、「文化」などのテーマをあつかってゆく計画であり、その第一歩として、このプロジェクトを位置づけている。
 さらに、副次的効果として、近年、社会生物学(進化生物学、行動生態学)への理論的特化という傾向を強めつつある霊長類学研究を、人類との関係に再び位置づけることにより、この国における霊長類学および生態人類学の創成契機であった人間存在の根源的かつ多元的理解という学的動機を回復することを期待したものでもある。


■研究会履歴一覧

(*印はゲストスピーカー)

2005年度
第1回 2005年5月29日
1河合香吏「本プロジェクトに関する趣旨説明」
2.本プロジェクトの学問領域的ひろがりに関する基礎的な了解事項の確認
(1)内堀基光「文化・社会人類学」
(2)伊藤詞子「霊長類社会・生態学」
3.研究会のすすめ方と今後の予定(全員)

第2回 2005年7月17日
1.黒田末寿「伊谷純一郎の霊長類集団の概念:何を求めて『集団』を見るのか、伊谷純一郎の学を例に考える」
2. 河合香吏「東アフリカ牧畜社会における隣接する『集団』間の関係とその舞台」

第3回 2005年11月5日、
1.北村光二「東アフリカ牧畜民における『集団』―サンブルとレンディーレの境界に生きる『アリアール』」
2.今村仁司「人間的に特有なもの---自然から文化への移行点」

第4回 2005年12月3日
1.梅崎昌裕「人類生態学にとっての『集団』について」
2.中川尚史「霊長類における『集団』の機能と集団間関係」

第5回 2006年1月9日
1.大村敬一「イヌイトの社会=自然哲学—カナダ・イヌイトの道徳=倫理観からみる集団、関係、言語、知識—」
2.早木仁成「霊長類の社会的な遊びをめぐって」

第6回 2006年2月6日
1.田中雅一「連帯理論再考――スリランカ・タミル漁村の交叉イトコ婚をめぐって」
2. 曽我亨「牧畜民ガブラからみた近隣牧畜民」

2006年度
第1回(通算7回)2006年4月29日
1.足立薫「混群における棲みわけと社会」
2.西井凉子「関係を生きる―ムスリムと仏教徒が共住する南タイの日常的実践の場から」

第2回(通算8回) 2006年7月21日
1.伊藤詞子「離合集散するチンパンジー―マハレの事例から」
2.寺嶋秀明「集団と平等性」

第3回(通算9回)研究会 2006年11月23日
1.船曳健夫「人間関係の場と構造―集団の成立について」
2.*西田正規(筑波大学)「平和力の人類史」

第4回(通算10回) 2006年12月23日
1.*高畑由起夫(関西学院大学)「自他を劈さく時」
2.内堀基光「社会集団は『進化』するか?」

第5回(通算11回) 2007年1月27日
1.黒田末寿「ボノボ(ピグミーチンパンジー)の集団間の対立を解消するのは雌か幼型性か」
2.杉山祐子「離合集散する『村』びとをつなぐ呪いの記憶」

2007年度
第1回(通算12回) 2007年6月30日
1.河合香吏「まとめと展望」
2.北村光二「コミュニケーションの決定不可能性と創造的対処—『社会的なるもの』とはなにか?」

第2回(通算13回) 2007年7月22日
1.床呂郁哉「移動する集団にとって空間(場)とは何か?:スールー・ボルネオ周辺地域におけるサマ(バジャウ)人の事例から」
2.椎野若菜「ケニア・ルオの居住集団と居住形態の変遷からみるエスニックな「集団」の形成―近隣アバスバの「集団」のありかたと関連して」

第3回(通算14回) 2007年11月4日
1.中川尚史「霊長類における社会構造と行動の種内変異—遺伝的変異をともなうか否か」
2.曽我亨「人類の進化史的基盤の考えかた:集団という現象にひきよせて」

第4回(通算15回) 2008年3月15日
1.大村敬一「社交としての生業—アフォーダンスをアメニティに変換するオートポイエーシス・システム」
2.足立薫「霊長類学における非構造と構造」

第5回(通算16回) 2008年3月30日
1.早木仁成「集団の形成と維持に関わる行動」
2.伊藤詞子「マハレのチンパンジーの社会と挨拶すること」

2008年度
第1回(通算17回) 2008年4月26日
1.今年度の年度計画(成果出版にむけて:全員)
2.*馬場悠男(国立科学博物館)「化石から探るホモ属人類の適応と拡散」
3.*青木健一(東京大学 大学院理学研究科)「進化理論から探るヒトの学習の特性」

第2回(通算18回) 2008年5月11日
1.黒田末寿「霊長類社会の平等原理と集団」
2.寺嶋秀明「サルの集団/人の集団,サルの平等/人の平等」
3.田中雅一「ネットワーク編成における誘惑と信頼―エイジェンシー論の視点から」

第3回(通算19回)2008年7月19日
1.杉山祐子「居住集団としての『村』と『我らベンバ』をつなぐもの」
2.全員「論集へ投稿する予定の論文の要旨と概要」

第4回(通算20回)2008年10月4日
1.床呂郁哉「集団形成と暴力―スールー海域世界における事例を中心に」
2.北村光二「『集団』現象の進化史的理解―システム/環境関係における2種類の集合的行為」

第5回(通算21回)2008年11月24日
1. 全員「研究会の総括と成果論集執筆に向けたブレイン・ストーミング」


■研究成果

(1) AA研および京都大学学術出版会から論文集『集団―人類社会の進化』(2009年12月)が刊行されました。
(2) Trans Pacific Pressから論文集“Groups: The Evolution of Human Sociality”(2013年2月)が刊行されました。

研究会記録

「人類社会の進化史的基盤研究(2)—制度—」


■プロジェクトメンバー

[主査]河合香吏、[副査]西井凉子
[所員]椎野若菜、床呂郁哉、星泉
[共同研究員]足立薫、伊藤詞子、内堀基光、大村敬一、春日直樹、亀井伸孝、北村光二、黒田末壽、杉山祐子、曽我亨、田中雅一、寺嶋秀明、西江仁徳、早木仁成、船曳建夫、山越言、

■概要

人類は生物分類学的には霊長目に属し、進化史的にはごく最近(約600〜700万年前)までチンパンジーやピグミーチンパンジー(ボノボ)といった大型類人猿とともに進化の過程を歩んできた。人類の社会性(sociality)の基盤はこれらヒト以外の霊長類との連続性と非連続性を検討することによってこそ、より深く明解な人類学的理解が可能となろう。このプロジェクトは、長期的プロジェクトの第1弾として2005〜2008年度におこなわれた「人類社会の進化史的基盤研究(1)」におけるテーマ「集団」に続く第2弾として「制度」をとりあげるものである。ここでは、「制度は言語のうえに成立する」という一般に当然と思われている命題にたいして、音声言語をもたないヒト以外の霊長類に「社会」を認め、社会構造論や家族起原論などを展開してきた霊長類学の知見や理論によってこれを相対化する。そのいっぽうで、当該社会の成員の行為・行動のなかに制度の前駆的なありようをみとめ、言語を前提としない制度の可能性とその進化史的基盤を追究する。

■研究会履歴一覧

(*印はゲストスピーカー)

2009年度
第1回 2009年4月11日
1.本プロジェクトの指針と展望(河合香吏)
2.各学問領域における「制度」
①霊長類学における「制度」(黒田末寿)
②生態人類学における「制度」(寺嶋秀明)
③社会人類学における「制度」(椎野若菜)

第2回 2009年6月13日〜14日
1.「集団」から「制度」へ(全員)

第3回 2009年7月26日
1.暴力と表象と孤独の形態学:イヌイトのシェアリングから「贈与」と「再分配」と「交換」を再考する」(大村敬一)
2.制度としての死:その初発をめぐって(内堀基光)

第4回 2009年10月10日
1.制度の進化史的基盤について考える(曽我亨)
2.行為選択を正当化する「分離された表象」の出現と制度化(北村光二)

第5回 日時:2009年12月5日
1. 制度:種と種の出会いから考える(伊藤詞子)
2. 群れからムラへ:「妬み」と「関係」の調整をめぐって(杉山祐子)

第6回 2010年3月29日
1.儀礼化をめぐって:制度への実践論的アプローチ(田中雅一)
2. ニホンザルの順位制(黒田末寿)

2010年度
第1回(通算第7回) 2010年4月29日〜30日
1.存在論的人類学へ向けて:ミニブタとヒトをめぐる部分的連接(春日直樹)
2.ルールは誰が決めている?:社会脳とことば(星泉)
3.チンパンジーの社会組織に関する地域差とその要因(山越言)

第2回(通算第8回)2010年7月31日〜8月1日
1.継承されるシステムの一つとしての制度—動物から制度を考える(*中村美知夫・京都大学)
2.コミュニケーションにおける制度的規則の役割と限界(*水谷雅彦・京都大学)
3.コーバリス『言葉は身振りから進化した』を読む(亀井伸孝)

第3回(通算第9回) 2010年10月30日〜31日
1.ニッチ理論と動物の社会性(足立薫)
2.「なにをやっても間違いばかり」:他者をめぐる欲望とモラリティ(*青木恵理子・龍谷大学)
3.狩猟採集民における教育と半制度:社会なき社会の制度なき教育(寺嶋秀明)

第4回(通算第10回) 2010年12月26日
1.霊長類の制度の進化と雑食性(*竹ノ下祐二・中部学院大学)
2.環境の操作:ヒト属における制度の進化史的基盤(曽我亨)

第5回(通算第11回) 2011年3月31日
1.アルファオスとは「誰のこと」か?:マハレM集団のチンパンジー社会におけるアルファオスの失踪と順位下落をめぐる事例から(西江仁徳)
2.子どもの遊びとルール(早木仁成)

2011年度
第1回(通算第12回) 2011年5月7日
1.制度の起源を考える際の「制度」にはどういう条件があるのだろうか?(黒田末寿)
2.カオスから秩序へ(西井凉子)

第2回(通算第13回) 2011年7月9日
1.チンパンジーの社会に制度的現象を探る—長距離音声を介した行為接続と「離れて居続ける」という活動の実践に着目して(*花村俊吉・京都大学)
2.制度以前と以後をつなぐものと隔てるもの(北村光二)

第3回(通算第14回) 2011年10月30日
1.野生の平和構築—スールーにおける紛争と平和をめぐる制度(床呂郁哉)
2.制度の基本構成要素(船曳建夫)

第4回(通算第15回) 2011年12月17日
1.「環境と制度」についての覚え書きーカナダ・イヌイト社会にみる情動の制度化についてのメモ(大村敬一)
2.「人類社会の進化史的基盤研究」の来し方行く末(河合香吏)

第5回(通算第16回) 2012月3月31日
総括および成果出版に向けてのブレインストーミング(全員)

■研究成果

AA研および京都大学学術出版会から論文集『制度―人類社会の進化』(2013年3月)が刊行されました。